青い毒リンゴ

今を、全力で愛す。

マクベスの目に宿るもの

2016/07/08


ありがたいことに2度目のマクベス

今度はもうちょっと雑誌を読んで予習していこうと思ったのに結局また原作を通読して終わるっていう…


まぁ一度観てるし、前回目が行き届かなかった細かいところまで見れたらいいな~なんて考えながら出向いたものの、
いざ観てみてびっくりした。


1週間でこんなに変わるものか…!?


まるちゃんのお芝居はもちろん、舞台全体が、すごすぎてしばらく立ち上がれなかった前回を遥かに凌ぐ勢いで進化しているのだ。
舞台は生ものとよく言われるし実際そうだと思うんだけれども、ここまで目に見えて変化していくものだったかと鳥肌が立った。


とにかくまるちゃんの表情がこれまで以上に豊かになった。ダンカン殺害前のにこやかな笑顔から狂気に憑りつかれた顔へのコントラストがより細かくはっきりと見て取れるように感じた。相手の動きやセリフに応じたリアクションが細やかだし、顔だけじゃなく指先まで全身にマクベスの血が流れているという印象を強く受けた。共演者の方々が仕掛けてくれているいろいろなアドリブもまるちゃんの良さを引き出してくれているし、台本の余白がすごく効果的に使われていてどの瞬間を切り取っても見応えありすぎる。


(上から目線みたいで申し訳ないが)1人のシーンになった時の間の取り方もぐっとうまくなったのではないかと思う。ちょっと前までは割とすぐにセリフを言い始めていたところを、ゆっくりと間を取って表情で語る時間を作ることで、マクベスの自己との葛藤のようなものも見えるし、後からのセリフがより味わい深く感じられるようになっている。


また、マクベスの夫人に対する情愛の念がより強く表現されているように感じた。
「かわいいおまえ」と囁くマクベスの声と表情はほんとに甘すぎて全身溶ける。あれはずるい。
あと後ろからの抱きしめ方が絶品。首筋に顔をうずめるしぐさはもうこれ以上極めなくていいです(嘘)
マクベスが狂気に陥ってしまうことに始まり、マクダフと戦う決心がつくところまで、彼の行動の多くが夫人への強い愛情が根底にあるということを示すため自ずと表現が繊細になったのかもしれない。

※前回書き忘れたので書いておくと、個人的に例のキスシーン()は自転車少年記の草太とカナデのそれの方がよっぽど刺さる。あの年齢で男子高校生やってる時点でうわぁ()なのに年齢的にもシチュエーション的にもほんとに…あれはもう…(伝わらない)


マクベス夫人といえば、夢遊病のシーンで着ている衣装の背中に血がついていることが話題になっているけれども、あれは演出上わざとつけているとのことだった。背中=自分では見えないことから、どんなに「忌まわしいしみ」を拭おうとしても、また消したつもりになっても、自身の見えないところについたまま決して消えることはなく、一度犯した過ちは抹殺できずにいつまでもつきまとうといったようなことを象徴しているのではないかと思った。ダンカンを殺したときに短剣をマクベスに代わって運び、自らをマクベス同様に血で汚すことで彼を奮い立たせ、運命を共にする意思表示をここでしているが、命を落とす前の最後の場面でも衣装に血がついているのは、血に始まり血に終わる、野心が病に変わっても罪を拭い去ることはできない夫人の悲しい運命を表しているのかもしれない。



マクベスが苛まれていく「狂気」にも、深みが出てきたというか、単に狂気と言い切れないような要素が含まれていると思った。壁を叩いて絶叫する場面は狂気に、現実に、そして自己に対する恐怖をますますリアルに描出しているし、ダンカン殺害後に「マクベスにもう眠りはない」と嘆く場面は狂気に堕ちていく入口としてよりインパクトの強いものとなっていて、手足の震えが止まらなかった。血まみれになって涎と涙で顔をぐちゃぐちゃにしながら叫ぶその姿は狂気以外の何物でもないし、言葉にできるようなものではないので本当にいろんな人に見てほしい。もはやまるちゃん自身の中にある闇を重ね合わせるどころか、それを呑み込んださらに深い闇を背負って舞台にぶちまけているかのようだった。


マクベス夫人の訃報を聞いて「あれもいつかは死なねばならなかった」と言い放つところもかなり象徴的な場面だと思うんだけれども、あの場面のマクベスの目は単純に狂気に満ちているというのとはまた少し違っているように思えた。セリフだけ聞けば、紛れもなく「そこまで言うかマクベス…完全におかしくなっちゃったな…」と言いたいところだが、目の奥の虚無感のようなものを見てしまうと、彼はただ気が狂ったというよりは「魔物の操り人形と化してしまった」と言った方が近いのではないかと感じた。もちろん予言の続きは自分の意志で聞いたのだし、野心が狂気のもととなったに違いないんだけれども、一度狂いだした歯車を止めることは到底できなかったわけだし周囲の影響も少なからずあったのではないだろうか。狂気の話題となるとマクベスの欲に焦点が当たりがちだが、劇中ではすべての登場人物がそれぞれの野心を持ち自分の欲を満たそうといくつもの陰謀が渦巻いている。バンクォーだって殺されていなければ子孫の王位継承の道を探っただろう。それらが絡み合って作用した結果、マクベスをあのような悲痛な運命に導いたのかもしれない。時には怯え時には戦いながらも狂気に苛まれ続けたマクベスは、骨の髄まで狂気に毒されていたわけではなく、魔物の餌食となってもなお奥底には慈悲深い心を最後まで潜めていたのではないかと私は考えている。先ほど少し触れたが、マクダフと戦う直前の場面で夫人の亡霊が現れ、それを見て戦う決意を固めた演出になっているのも彼の潜在的な愛情に溢れた心を映し出すためのように思える。(この考えに至るまで相当な時間がかかったのだが、狂気の奥に虚しさや憂いすら感じさせる丸山隆平の味わい深い演技にはひれ伏すしかない)


私のマクベスはこれで見納めになってしまうけれど、本当はもっと何度も足を運びたい。狂気に叫ぶマクベスはきっと見るたび新たな発見があるし、マクベスについての知識と解釈をさらに深めたうえで舞台を観たいという気持ちもある。本作品に関してはヲタク的目線と英文学的目線との双方から見ているような感じなので、まだまだ知りたいことが山ほどあるのだ。〝マルべス〟がこれからどのように進化していくのか、想像しただけでワクワクする。まるちゃん自身は、この公演が終わったころにはただでさえかっこいいのにますます男らしさに磨きがかかってとんでもないアイドルになっているに違いない。これ以上中毒性の高い危険すぎるアイドルになってしまったらほんとに罪深い。いくら惚れても惚れ足りない()
とにかく今後のマルベスとまるちゃんの成長には期待しかない。最後まで全力で走り抜いて欲しい。



※カテコでめっちゃニコニコしながら誰かにしきりに手を振っていると思ったら、この日の公演に亮ちゃんとシゲが来ていたらしい。まさかこれだけある日程の中であの狭い劇場で自担とたまたま同じ空間にいたなんて奇跡的過ぎてびっくりした。幸せだ…

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